2008-11-24

346 強盗エキスプレス 25-11-2008(火)

 これは中南米では常識の誘拐エキスプレス(誰でも誘拐して即身代金要求)を文字ったスペインでの似た様な犯罪についての新聞の見出しである。事件は先週金曜日、しかも、筆者の地元グラナダ市のど真ん中で起きた真昼間の話。
 強盗二人が国鉄駅近く闘牛場横のアパ-トのエレベ-タ-に乗っていた住人にピストルを突き付け部屋に押し入り、中に居た家族二人も縛り上げ、金目の物はもちろん、ナイフを突き付けてカ-ドの暗証番号を聞き出し、しかも、ちょうどピンポ-ンして来た知人3人も中に招き入れ同じ目に。結局一人が見張っている間にもう一人が合計6人全員のありとあらゆるカ-ドの全額を引き出してトンズラ。因みに、この近辺はATMが多いとのこと。運がいいのか悪いのか。そこまで計算していたとすれば中々の知能犯だ。
 地元メディアによって強盗エキスプレスと名付けられた!? さすがはマスコミ。ツボを心得た心憎いネ-ミングだ。今まで郊外の一軒屋を狙うのがこの手の強盗だったが、市内の集合住宅でも起こったと言うことは昨今の不景気に伴う治安の悪化を反映しているのだろうとか。

 あなたがたは自分のために地上に宝を積んではならない。そこでは、虫が食い、さびがつき、泥棒が忍び込んで盗み出す。あなたがたは自分のために、天に宝を積みなさい。そこでは、虫が食うことも、さびがつくことも、泥棒が忍び込んで盗み出すこともない。あなたの宝のある所に、あなたの心もあるからである。-----或る昔の偉い人 

 厳しさを増す世界的金融経済危機に伴う大不況。多くの日本人は金がなければ仕事を探そうと思い立つのでしょうが、世界にはそう言う思考回路が出来ない哺乳類ヒト科もいるのです。パソコンにワ-ドが入ってなければワ-ドが機能するはずがない様に、働くと言うプログラムが入ってない連中は働きゃしません、と言うか頭に浮かびさえしないとすれば、どんなに金がなくても働くことを厭い、働かずに金をせしめる思考回路が機能し、株、ギャンブル、携帯片手にろくでもないことをしでかし墓穴を掘り、上手く行かなければ更に口八丁手八丁の嘘吐きの権化と化して架空の投資話など詐欺師に昇華。昇華が悪ければ最後はもう正体剥き出しの押し込み強盗にまで退化して進化極めり。
 人間確かにナイフやピストルを突き付けられれば暗証番号は吐くでしょう。逆に、盗む側にしても犯罪としては単純明快で知能犯である必要もなく、単刀直入(文字通りか!?)で経費も掛からず安上がりで、逃走経路は別として成功率の高い強盗です。被害者も命は惜しいでしょうからね。
 悪いことは末期ガンの如くすぐ広まるものだとすれば、今後我も我もと真似するバカが増えて来るでしょう。日本でも不況が厳しさを増せば同様の凶悪犯罪が増加しそうです。堪ったものではありませんが、それなら、なお更金と物以外の価値観を持たなければ人生やってられません(先週のコルムナ)。良くも悪くも我々の宝のあるところに我々の心も惹かれ、宝を求めて我々は行動するからです。
 なお、中南米では面倒臭ければバスごと誘拐して当局に身代金を要求するとか!? 流行らないことを祈ります。合掌。

320 良いギタ-とは良くないギタ-ではないギタ-!? 25-11-2008(火)

 ギタ-に限らず何事も良い面だけではなく悪い面との両面から考察すれば、物事を見る目の引き出しの数は増え、奥行きもより深くなります。反面教師はそれ自体所詮ワルかも知れませんが、逆手に取って教訓を搾り出すならご利益もまたあると言うことです。例えば、名器を持っているあるフラメンコギタ-のプロが以前『たまにはランクの落ちるギタ-も弾かないと名器の有難さが分からなくなる』と言っていましたが、反面教師とはこんな感じかも知れません。
 さて、第一印象が大切なのはどうやら人と人の出会いだけではなさそうです。例えば、するめイカの如く何度も噛みしめて良さが分かるのがクラシック音楽だとすれば、客と出会い頭の一発勝負の映画音楽は単刀直入に第一印象で聴衆者の心を捉える様な作曲偏曲だとか聞いたことがあります。なるほど、理に適ってはいますね。
 深さで前者、商業主義で後者でしょうか。筆者は両方好きですから優劣は付ける気はありませんが、ギタ-に限らず何らかの優先順位に基いて優劣を付ける選択は大切です。
 ただ、その優先順位が深く考えない、身勝手な思い込みによる、純粋に見た目だけの第一印象だとすれば、ギタ-に限らずこれはちょっと問題です。
 例えば、背が高くてハンサムで次男で高級取りで!? う~ん、浅はか!?
 浅はかと言えば、今まで一番バカ負けしたギタ-の選び方は『この模様(サウンドホールのモザイク)綺麗~』!? 昔うちに来た女性客でしたが・・・。
 従って、来週からはもう少し深く良いギタ-と良くないギタ-についてコルムナして行きましょう。

2008-11-17

345 新車で不景気をブッ飛ばせ 18-11-2008(火)

今週のタイトルは別に『コント55号の紅白歌合戦をブッ飛ばせ』と言う訳ではないのだが、スペイン政府は先日10年以上の中古車の新車買い替えに対し補助金制度を導入すると発表した。公金を投入してまで冷え込む自動車業界を活性化したい訳だ。明からさまに現ナマをばら撒く日本政府と手法は違えど理屈は同じ。どうやらどこの国でも政治家の思い付くことは皆似たり寄ったりらしい。
 時を同じくして先週末ワシントンで開かれた世界主要国首脳が参加しての国際金融危機対策会議。当初スペインは呼んでもらえず、外交の限りを尽くしてやっと出席に漕ぎ着けたのはせいぜい10日前。スペインの経済力からすればどうでもいいと主催国アメリカから度外視を決め込まれたフシもあるが、ブッシュJrが第二次イラク戦争から国連軍として参加していたスペイン軍を総選挙の公約通り撤退させたサパテロ首相に個人的にカチ-ンと来ていたとも言われている。今回はめでたく両者の和解の握手が報道されたが・・・。
 もっとも、サパテロ首相はアフガニスタンのスペイン軍は撤退させず、つい先週もタリバンの自爆攻撃(スペイン語でカミカゼと言う!?)で兵士2人が殉職し国葬されたばかり。ちょうどスペイン国王と王妃(コルムナ343)が東京のセルバンテス会館で天皇陛下とフラメンコを観ていた時である。

 私は貧しさの中にいる道も知っており、豊かさの中にいる道も知っています。また、飽くことにも飢えることにも、富むことにも貧しいことにも、あらゆる境遇に対処する秘訣を心得ています。-----或る昔の偉い人

 最後はお決まりの国際協調を前面に押し出した共同声明。IMFの強化など具体案も出た様ですが、ICUの患者にはその場凌ぎの緊急輸血の後、一般病棟に移って体力を回復し、遂に社会復帰するにはそれなりの時間も労力も費用もかかるのは当然ですが、それもこれも患者にまだ希望があればの話です。世界中で多くの人が強欲身勝手金銭物欲至上主義と言う不治の骨肉腫に犯されている以上、どんな素晴らしい経済金融政策も功を奏するはずもないとすれば、それはせいぜい延命策。モルヒネの痛みは世界中でまだ始まったばかりでしょうが、陽気な(ノ-天気とも言う)スペイン人達はガス欠の車はガソリンを入れたらまたすぐに走り出す程度に今回の金融経済危機を捕えている様です。政治家も再来年には景気は戻るとか呑気なことを言っていますが、再来年の総選挙を見据えての発言であることは透け透けです。
 それでも神経をすり減らしているスペイン人もいるのか、一昨日の新聞に拠ると不景気のおかげで最近精神安定剤の売上が激増しているそうです。
 大体錠剤を飲んで精神的苦痛が治る訳がない!? 金と物以外に価値観を持てばこんなことからはすぐに解放されるのですが・・・。

319 弦に触れれば音が出るマヌエル・ラミレス(4) 18-11-2008(火)

 そして、勝手に音が遠くまで飛んで行ってくれる(先週の続き)。つまり、音の遠達性に秀でています。
 軽く弾いた音が向こうの方にも届きます。軽く弾いていますので、手元で大きな音だと言う印象はありませんし、実際大きな音ではないのですが、遠くまで聞こえて行きます。
 ギタ-の良し悪しを判断する際、どうしても第一印象の音量で判断してしまう人が、ベテランに至るまで多いのが実情ですが、違いが分かる男は量より質、音量より音質で判断する様です。そして、音質の伴うギタ-の音色はまた音量はなくとも勝手に遠達してくれます。
 さて、それではこの弦に触れれば音が出るマヌエル・ラミレスに出会ったのを機会に、来週からは良いギタ-とは、また、そうでないギタ-についてもコルムナして行くことにします。

2008-11-10

344 図星、敗者の弁 11-11-2008(火)

 どちらが勝っても世紀の金融経済危機を乗り越えるのは至難の業であり、軍事以外は超大国ではなくなって行くだろうと筆者は思っていた、先週やっと終わったアメリカ大統領選挙ショ-。こちらでは根がアメリカ嫌いなスペイン人と言うこともあり、どんなニュ-スも記事もそれなりの臭いがする論調となっている。
 そんな中、マケイン候補の敗北宣言の次の一句が印象に残る。とは言え、両者の他の総ての演説を聴いたり読んだりした訳でも何でもないが・・・。
 アメリカは勤勉で意志の強い人にチャンスを与えてくれるのだ。
 宝くじに総てを賭けるアメリカ嫌いのスペイン人なら(コルムナ338)、迷いもなく『そりゃ、アメリカの話だろ』と馬耳東風に豪快に笑い飛ばして何の不思議もないこの短い一句には多くの真実と、皮肉にも反面教師が隠されている。いや、アメリカだけではなく、実は世界中のいかなる国のいかなる国民にも当てはまる大真理が詰まっている。

 だから、貴方の貧しさは浮浪者の様に、貴方の乏しさは横着者の様にやって来る。-----或る昔の偉い人

 まず、勤勉どころか働かずに横着者の如く住宅転がし錬金術で人生面白おかしく過ごそうと言う意志だけは強かったサブプライムロ-ンの当事者どもこそ今回の金融危機を招いた国賊だと暗に言っていた訳ではないでしょうが、勤勉で意志の強い人にチャンスが与えられるのはアメリカだけではなくどんな社会もどこの国でも同じこと。これこそ正に質実剛健の定義とも言えます。
 次に、勤勉で意志の強い人に巡って来るチャンスこそ真のチャンスであり、金銭物欲に基づく強い意志は人を欺きのチャンスに誘(いざな)い、自らを浮浪者に至らしめます。浮浪所得か!?
 最後に、国の繁栄は政治や政治家の手腕ではなく、チャンスを生かす勤勉で意志の強い国民の質に拠るのであり、錬金術で得た金の量に一喜一憂する、勤労を厭う横着者の国民が多ければ多いほどそれは一国の骨の腐れでもあります。今月20日ワシントンで世界主要各国が骨肉腫にどんな抗癌剤を投与するのか議論する様ですが・・・。
 それにしても、和牛一族も零落れたものです。小さな室も荒れ放題、お姉さんの歯もガタガタです。おかしな歪んだ意志だけは強かったのでしょうが・・・。

318 弦に触れれば音が出るマヌエル・ラミレス(3) 11-11-2008(火)

 この交換したマヌエル・ラミレスの白(糸杉:シプレス)は(先週の続き)、白なのにフラメンコギタ-用にゴルペ板が貼られておらず、しかも100年経った割りに保存状態も良く、割れもありません。フラメンコの国スペインの当時のギタ-業界に現代の様なクラシックギタ-&フラメンコギタ-と言う明確な線引きの概念があったかどうかはともかく、仲介してくれたギタリストの言うには、持ち主はフラメンコを弾く人間ではなかったことは明らかで、また、長年弾かれていなかった可能性もある、それほど保存状態は良好です。
 とにかく小振りだと言うのが見た目の第一印象でした。正面から見るとそうでもないのですが、側面板が何と75~83mm。ところが、この超薄型ボディ-だからこそ、予想に反するそのバカでかい音量に一瞬たじろぎました。以前ベルンド・マルティンに製作依頼した小振りなタレガモデル同様、ギタ-が鳴るのに、必ずしも大きな箱は必要ないことを今回もまた教えられました。
 しかも、その音の出方が傑作です。弦に指先が当たるだけで音が勝手にスキっと出てくれます。これは実際体験しなければ分かりませんが、奏者の仕事は指先を弦に軽く当てるだけ。奏者がギタ-を爪弾いて音を出すのではなく、良いギタ-とは音が勝手に出てくれるものだと言うことを実感させられます。
 こうなると相乗効果で弾く方も指に力を込める必要が無く、コルムナ315まで散々述べて来た両手各指の独立性まで勝手に養われそうです。
 指が勝手に動く、音が勝手に出る・・・。この“勝手に”と言うのが意外とギタ-上達のキ-ワ-ドなのです(コルムナ6)。
 それを助長してくれる良いギタ-・・・。良い楽器を持てば上達も早いとは楽器商の宣伝文句の定番かも知れませんが、確かにこれは一理あります。

2008-11-03

343 女王様の思し召しじゃ 04-11-2008(火)

 昔はハプスブルグ家だったスペイン王家はナポレオン戦争以来現在に至るまでブルボン家。日本の天皇と同じく政治的権力は無いが、過去の戦争責任がないためか、いくら名前だけとは言え憲法上国王フアン・カルロス一世は三軍(かなり弱い)の総司令官で、旧ペセタからユ-ロになってもコインや紙幣、切手にもその肖像がふんだんに用いられている。そして、今年70歳のソフィア王妃はギリシャ国王のお血筋にあらせられるどころか王女そのもの。もっとも、ヨ-ロッパの王室はこの様にお互い親戚だらけらしい。そのソフィア女王の先週発したコメントが今週もまたスペインのニュ-スを賑わせている。
 夫婦とは男女の夫婦を夫婦と言うのです。
 その割にはスペインオカマレズ協会が嵐の如く抗議したとは今のところ報道されてはいないが、もはや男同士女同士が合法的に結婚出来るこの国では、憲法に照らし合わせればこれは明らかに違法発言であるが、それを一平民ではなく、いくら個人的意見とは言え女王様が公のインタビュ-でスペイン中に堂々と告知したことの方がむしろ議論を巻き起こしている。意外と賛成の同情票的意見の方が多い様でもある。

 私達は真理に逆らっては何も出来ず、真理のためなら何でも出来るのです。-----或る昔の偉い人 

 日本語情報センタ-の近くに携帯電話屋さんがあります。売り子のお姉さんは背が高くて美人で細面で細身でスタイル抜群。夏場はへそ出しブラウスなので、前屈みになると腰の入墨が丸見え!? しかも、並の大きさではない!? 余りのバカでかさに、最初見た時筆者はそう言う柄のブラウスかと見間違えたほどバカでかい入墨です。また、今日雇用者側も少々の入墨があろうがスペインではもう誰も気にしないご時世です。
 日本でも今後入墨や、耳だけではなく鼻や唇や眉へのピアスが徐々に市民権を得て行くことでしょう。スペインでは子供達や学生もこんな格好をして学校に行く連中が多くなって来ました。
 それとオカマ、女オカマに一体何の関係があるのか?
 大ありです。女王様の思し召しはともかく、天の思し召し、天の摂理に毒吐いて、過半数だからとそれを人間様が勝手に正当化合法化さえして悦に入って見得を切る・・・。どれもこれも見事な必殺丸出しパフォ-マンスであることには何の違いもありません(先週&先々週のコルムナ)。
 摂理には従うか毒吐くかのどちらかです。摂理に従うことに人目をはばかることはありません。

317 弦に触れれば音が出るマヌエル・ラミレス(2) 04-11-2008(火)

 大枚叩いて15年位前にマヌエル・ラミレスを手に入れました(先週の続き)。インディアンロ-ズで何と真鍮の共鳴筒付き。当時筆者もギタ-を見る目はなく、ラベルと音と共鳴筒の珍しさだけで判断してしまいましたが、後から分かる人に見てもらったところ、『確かにラベルは本物だが、サインが無いし、名工マヌエル・ラミレスにしてはヘッドや装飾など明らかに仕事の粗さが目に付く。これはマヌエル・ラミレスのギタ-ではなく、マヌエル・ラミレス工房のギタ-だ』そうです。つまり、弟子達が作ったと言う訳です。
 ただ、ほぼ100年前のギタ-で、音はかなり良かったので(ギタ-は古い方が音量も音色も優れる)、筆者としてはそれなりに満足していました。
 そうこうする内、最近あるギタリストを通じてギタ-を弾かないイタリア人の大金持ちのギタ-収集家(どう言う性格だ!?)とコンタクトが出来、マヌエル・ラミレスの白(糸杉:シプレスの俗称)を2本所有しているが、2本あっても仕方がないから筆者の黒(ハカランダ&ロ-ズの俗称:前述のギタ-)と交換してくれないかと持ちかけられました。筆者のはマヌエル・ラミレス本人の作品とは言い難いがそれでもいいのかと念を押した上で、まず向こうから白を送ってもらいました。
 とは言え、この白もまたサインはありませんでしたので(内視鏡で覗くと隅の方に書いてあるかも知れませんが)、同類項かと思いましたが、分かる人に見てもらったところ、仕事も随分丁寧で気品さえ漂い、何よりマヌエル・ラミレス独特の裏板の補強手法が見受けられるとのことで(合わせ部分の補強が絆創膏状)、100%マヌエル・ラミレスの作品ではないが、かなりマヌエル・ラミレス自身の関与したギタ-との結論に達しました。しかも、年代は忘れましたが、どうやら何年か前のト-レスのギタ-のコピ-の様だとのことです。当時のト-レスモデルと言うことになりますね。次回知り合いのト-レスの曾孫に会う時に見てもらうつもりです。
 そして、肝心の音ですが、弦に触れるだけでそのもの凄い発音と音色に一瞬たじろぎました。(この項続く)